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TNスケッチブロガーJin Tonicの備忘録です。

挿絵日記

挿絵日記 朝刊小説 きずもの 193〜200

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聖愛は「初めて」を迎えるために極端な肉体改造へ踏み込み、食事制限とダイエット器具で体を追い込み、体重や肌色、乳首の色まで「新品」であろうと執着する。理想から外れた自身を許せず、紡に捧げるために完璧を求めながらも、その瞬間が来てほしい気持ちと来てほしくない恐怖が胸の中で揺れていた。一方、季節が変わり、長く続いた雨が上がると万千花は「生き延びた」と思う。渡航後しばらくは天候への不調を感じなかったが、カナダ生活に慣れ心身が落ち着いた頃、激しい生理痛や頭痛に襲われるようになる。天気の悪化と連動する痛みは祖母や母の訴えを思い出させ、自分も「天気に左右される人間」になっていると気づく。ビタミンDで多少は和らぐが、結局はアドビル(Extra Strength)に頼らざるを得ず、痛みに耐えながら働き続けた。
労働時間は月300時間を超え、物価高で貯金が追いつかない。PR取得のための点数は年齢・学歴で大きく不利で、語学と勤務年数で稼ぐしかない。満点に近づくため語学学校への再入学を決意するが、移民コンサルタントからは半笑いで「無理でしょう」と言われる上、最終的には「カナダ人男性と結婚すれば手っ取り早い」と屈辱的な助言まで受け、万千花は怒りと虚しさを覚える。
相談料が安いという理由で選んだことを悔やみながら、バス停でSNSを開き、より厳しい境遇の人々を探しては心の安定を保とうとする。だが他人の苦境を見ても救われず、若さによる高得点を得られる者たちに苛立ちを覚えるばかり。バスに乗ると、多様な人種の乗客たちを眺め、彼らがPR保持者なのか、生まれながらのカナダ人なのかを考える。自分は英語を聞き取れるまでになったのに、まだ「永続的にここに住む資格はない」と感じてしまう。
それぞれが移民としてこの国に辿り着いた道のりを想像しながら、万千花はまだ見えない未来に、細い可能性の糸だけを信じてすがり続けていた。


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挿絵日記 朝刊小説 きずもの 185〜192

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母が英会話教師トニーに会う時だけ甘い空気を漂わせることに、聖愛だけが気づいていた。父は犬のように母に懐き、姉・乃愛は恋を知らず、家族で唯一恋をしているのは自分だけだと感じていた。母が片道1時間もかけて通うトニーはマレーシア出身の留学生で、集落では白人ほど尊重されず、姉はその差別に激しく怒った。だが聖愛には、姉の「正しさ」が白人の価値観の受け売りに見え、反感を覚える。聖愛は集落のヤンキー・紡と恋に落ちる。彼は粗野だが誠実で、卒業式の第2ボタンを彼女のために取っておいた。彼のそばにいたくて進学を決め、紡が地元で働くように、自分も近くの高校を選んだ。

地域の人々は「美男美女の子」として聖愛を可愛がり、母似の美貌を褒めた。対して父似の乃愛は、頭脳明晰で正義感が強いが、次第に妹と衝突するようになる。かつては頼もしく憧れの存在だった姉が、いつの間にか「鬱陶しい存在」に変わっていったのだ。英語部に入ってから乃愛は「外見を語るのは差別」と考えるようになり、父への「キモい」という言葉を封印。代わりに「正しくない行動」を糾弾するようになった。テレビでもルッキズム(容姿差別)が問題視される時代、乃愛はそれを当然視したが、聖愛にはそれが息苦しかった。

彼女は「可愛くありたい」と思う自分を否定できず、姉の説教に反発する。紡から「お前は俺のもんじゃ」と言われると嬉しかったし、嫉妬されることが愛の証と信じていた。乃愛がその関係を「モラハラ」「ジェンダー問題」と糾弾すればするほど、聖愛は孤立感を深める。だが姉が本当に嫉妬ではなく、妹を心から案じていることも分かっていた。

姉の「正しさ」が暴走したのは、父の幼馴染である小説家・松川の事件からだった。かつて集落の誇りだったその作家が文学賞を受賞し、父とも親交を続けていた。姉は中学生の頃から彼の作品を深く読み、「人の罪や救いの不可能性に挑む作家」と語った。その聡明さに家族は驚嘆したが、後に松川が性的暴力を告発される事件が起こると、乃愛は激しく糾弾に転じた。匿名でSNSにアカウントをいくつも作り、書店や学校に抗議メールを送りつけたのだ。

聖愛には、それが「正義」ではなく「狂気」に見えた。どうでもいいと思う事件に全力を注ぐ姉と、ただ好きな人を好きでいたい自分。その温度差こそが、二人の決定的な断絶を生んでいた――。


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挿絵日記 朝刊小説 きずもの 177〜184

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遙(はるか)の記憶にあるカヨさんは、家族の誰とも血縁のない、不思議な存在だった。祖母のような年上の女性で、家事を甲斐甲斐しくこなしていたが、いつの間にか姿を消した。バンクーバーへ旅立つ前、父・映心(えいしん)と食事をしていた遙は、久しぶりにその名を耳にする。カヨは実は「カ・ヨウ」という名の不法移民で、困っていた彼女を映心がかくまっていたのだという。遙は驚きつつも、父が彼女をタブー視していないことに安堵する。

その後、映心と紹興酒を飲みながら過ごす時間に、遙は父への複雑な愛情を再確認する。放任されながらも、どこか深く愛されてきた――。やがて遙はカナダでの暮らしに慣れ、「Le Coq」というレストランに通うようになる。語学学校でも上達を実感し、マリア(ブラジル出身)とエレナ(スイス出身)の友人ができた。3人は文化や社会保障、コロナ禍の経験を語り合う。スイスの孤独、ブラジルの助け合い、日本の曖昧さ。遙は自国を説明する言葉を持たず、英語の語彙の乏しさを痛感する。

日本では「自粛警察」などの異常な同調圧力が横行したが、それを英語で説明できない自分に歯がゆさを覚えた。外国人が抱く「真面目で安全な日本」というイメージと現実の乖離にも戸惑う。
ある日、「Le Coq」で出会った白人女性ケイティーと気さくに会話できたことが、遙に大きな自信を与える。語学学校以外で初めてできた友人だった。英語で冗談を言い、映画を字幕なしで理解できるようになった遙は、成長を実感しながら語学学校を卒業する。

一方、日本では新たな物語が動き出していた。町田猛(たけし)の次女・聖愛(セア)は、母・頼子(よりこ)の浮気を疑いながら、恋人・紡(つむぐ)と純粋な恋を育む。二人は「希望の丘」で永遠の愛を誓い、南京錠をかけて将来を夢見る。紡は「SEA(セア)」と自らの腕に刻み、最初の子どもには「海」と名付けようと約束する。
聖愛にとってそれは幼い誓いでありながらも、両親の世代へとつながる「愛の循環」の始まりでもあった。

バンクーバーで自立の力をつける遙、東京で再会し絆を取り戻す頼子と善恵(よしえ)、そして地方の町で愛の芽生えに戸惑う聖愛。――三世代の女性たちの物語は、時と場所を越えて静かに交わり始めていく。


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挿絵日記 朝刊小説 きずもの 169〜176

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抹茶アイスを食べながら、頼子は「昔話は不妊の物語だ」と語り出す。竹取物語や桃太郎では、子どもを授からない老夫婦が主人公だと指摘し、「石女(うまずめ)」という言葉の残酷さに触れる。頼子がその話題を持ち出す背景には、自身が卵巣を摘出し子を持てなかった過去があるが、彼女は感傷を拒むように軽やかに語る。善恵は「離縁されなかっただけで恵まれていた」と言う頼子の言葉に反発を覚えるが、同時にその反発が現代的感覚の押しつけであることも理解している。彼女はかつて「女を捨てた女」を軽蔑していた自分を省み、年齢を重ねた今、性的に求められなくても「女である」ことを自覚している。

頼子は「昔話は養子の話なのかも」と善恵の言葉に頷き、実は自分が養子であることを打ち明ける。不妊ではなく、行き場のない子を育てたいという母の意思で迎えられたと語り、善恵はその家族の豊かさに圧倒される。頼子の両親は研究者で、自然や美を尊び、子どもたちを星空の下に寝かせて育てた。それに対し、善恵の家庭は貧しく、父は娘の容姿をからかい、母は「器量が悪いなら笑っていなさい」と言うような家だった。親に「可愛がられる」経験を得られなかった善恵は、他者の愛情を身体で得ようとし、男性に愛されることを自己価値の基準としてきた。同性には疎まれたが、大学で頼子と出会い、初めて「ジャッジされない関係」を得る。だがその頼子が、自分の恋人を奪った過去がある。それでも善恵は彼女を憎みきれず、むしろ恋人より彼女を失う方が怖かった。彼女にとって頼子は、特別で不可欠な存在だった。

物語は視点を遙に移す。カナダ・バンクーバーで語学学校に通う遙は、厳しい授業の合間に、教師ジェニファーの勧めで贅沢なランチを楽しむ。語学力が伸び悩み、生活費も限られる中、彼女にとって食事は自己肯定の手段だった。ステーキのタルタルを頬張りながら、節約生活を送る万千花の姿を思い浮かべ、どこか後ろめたさを覚える。万千花は昔から食に無頓着で、体を飾ることばかりにお金を使ってきた。だがいまや彼女はヘルシーな食事で痩せ、遙は逆に太った。遙の食へのこだわりは、再び同居することになった父・映心の影響だった。食通の彼は、安くて美味いものを探す情熱に満ち、誰にでも気前よく酒を振る舞う豪快な人物。遙はその豊かで社交的な食の世界を、大人になって初めて知る。かつて父と食卓を共にすることのなかった彼女にとって、それは「失われた幸福」の再発見でもあった。


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挿絵日記 朝刊小説 きずもの 161〜168

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万千花は、曽祖母タツの「理不尽なルールへの静かな反抗」を受け継いでいた。子どもの頃から給食を残し、教師の命令にも従わず、「特別でありたい」と願いながらも、父の借金や家族の貧しさがつくる“望まぬ特別”に傷ついていた。だが「マチカは私たちの特別な人だから」とキキに言われた瞬間、彼女は初めて望んでいた「特別」に触れた気がした。文化住宅で女4人が寄り添って生きた記憶と同じ温もりを感じながら。

やがて万千花は、遙をキキとゾーイに紹介する。黒猫ジジの逃走騒ぎをきっかけに、猫を外に出すかどうかという話題になる。遙は「外に出すと虐待だと言われる」と語り、キキとゾーイは「それでは猫はどうやって人生を楽しむの?」と真顔で問う。万千花は、外を知らぬ猫を「外の存在を知らない日本人や、家から出ない曽祖母」に重ね、胸の奥に沈黙を抱えた。だがゾーイの焼いたクッキーと遙の屈託のない笑いが、場の緊張をやわらげる。遙は相変わらず奇抜な化粧をしているが、その中に子どもの頃の純粋さを残していた。

やがて話題は言葉と発音へ。二人は英語教育を笑い飛ばし、「ジスイズアペン」しか覚えさせなかった教師“ジス”の記憶で盛り上がる。万千花は努力で発音を矯正したが、遙はまだ「呪い」の中にいる。だが彼女はそれを恥じず、スタバやスーパーでの失敗談を明るく語る。その自然さに、他人の目や規範を恐れてきた万千花は、胸を突かれる。遙には、恥じることのない強さがあった。

場面は変わり、善恵の視点へ。彼女は、事件の後にようやく旧友・頼子と連絡を取る。「元気にしてる?」の一文だけのメッセージに、頼子は一ヶ月後「元気にしてるよ」と返した。久々に再会した頼子は、白髪まじりでも化粧気がなく、しかし気高い美しさを保っていた。フリースにジーンズ、コンバースという飾らない姿で、高級レストランでも自然に人目を引く。

頼子は昔と変わらず、迷わず天丼を頼み、豪快に平らげる。善恵はそんな彼女を眩しく見つめながら、若い頃、同じ学食で毎日麻婆豆腐を選んでいた姿を思い出す。頼子の瞳は蜂蜜色に光り、静かな強さを湛えていた。山登りをやめ、年齢や体力の衰えを淡々と語る頼子に、善恵は言葉を探す。夫の話題を避けて空気は一瞬重くなるが、食事を終えた頼子の笑顔と無邪気な食欲が、かつての時間を取り戻していく。

こうして、過去と現在、異国と日本、反抗と受容が交錯する中で——
誰もが「外を知らぬ猫」のように、それぞれの檻を破ろうとしていた。


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