
作家・貢は、自分が「おじさん」であることを認めたくない44歳の男性である。彼は若い女性のファッションに関心を抱き、とくに女性の裸を美として愛でてきたが、サイハイブーツだけは受け入れがたかった。ミシェル・オバマが履いた銀色のグリッターブーツは、女性たちの「おじさん排除」の意志を象徴しているように見え、自分がその「排除される側」にいることに衝撃を受ける。貢は自らをリベラルで清潔な存在として保ち、世間の「嫌われるおじさん像」には当てはまらないと信じていた。若い女性との関係も、強引ではなく自然な流れで築いたとし、自分は決して権力を振りかざしたり、差別やハラスメントを行う人間ではないと自負している。
だが、大学時代のサークル仲間との再会をきっかけに、過去を振り返る中で少しずつ「老い」や「ズレ」を感じるようになる。若い頃は軽薄だった仲間たちを見下していたが、今や自分もその延長線上にいると気づき始める。かつては恥じて隠していた過去にも、今では余裕を持って向き合えるようになったのは、作家としての地位や穏やかな家庭生活、安定した日常があったからだった。しかし、そんな自信と余裕に満ちた日々の中で、自分自身が確実に「おじさん」へと変化していることを、貢はサイハイブーツの衝撃を通して痛感する。彼の内面には、若さや魅力、清潔感といった「非おじさん的」な要素を保持し続けたいという強い願望と、確実に進む加齢との葛藤が広がっていく。

にほんブログ村