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TNスケッチブロガーJin Tonicの備忘録です。

挿絵日記

挿絵日記 朝刊小説 きずもの 249〜256

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此城は、かつて取材を通じて関わった作家の転落を思い返す。若い女性と大麻で摘発され、表舞台から姿を消した彼の姿は、元恋人に捨てられた時以上の苦い後味を残した。そんな思索の最中、娘の琴子が発熱し、此城は現実に引き戻される。一方、善恵もまた、自身の体の異変――急な火照りを更年期の始まりだと受け止め、「更年期記念日」と半ば冗談めかして名付ける。体温は平熱だったが、彼女の内側では、確かな変化が起きていた。

善恵は、親友の頼子を訪ねる。頼子は、かつて善恵の恋人だった作家・貢の妻であり、現在その貢は膵臓がんを患っている。知性と美意識に満ちた頼子の家で、善恵は久しぶりに貢と再会する。痩せ衰えた彼の姿に動揺しつつも、善恵は「がんの人にどう接すればいいのか」が分からない自分を意識する。頼子は穏やかに振る舞い、貢もまた謙虚で静かな態度を崩さない。その姿は、世間を騒がせた不祥事の記憶と結びつかず、善恵に戸惑いを与える。

頼子は、夫の逮捕や病について驚くほど淡々としている。SNSもテレビも見ず、世間の声から距離を取り、植物や動物、読書や手仕事に囲まれた生活を送ってきたという。善恵はその健やかさの理由を少しずつ理解していく。情報に晒され続け、不安や怒りを増幅させてきた自分の時間と、頼子の静かな日常との差が、善恵の胸に突き刺さる。

頼子は、噂や評価に左右されない人物だった。学生時代、善恵が自分についた性的な悪評を打ち明けても、頼子は何ひとつ態度を変えなかった。その「知らないこと」「気にしないこと」は、無関心ではなく、他者をそのまま受け入れる強さだったのだと、善恵は今になって思い至る。

別れ際、頼子は朗らかに、善恵が営む「女性用風俗」を利用したいと申し出る。戸惑う善恵を前に、頼子は昔と変わらぬ率直さで笑う。その変わらなさこそが、混乱と喪失の中にいる人々を静かに支える力なのだと、善恵は感じ始めていた。


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挿絵日記 朝刊小説 きずもの 241〜248

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241〜248回では、ライターの此城サリーが作家・望月まもるに取材する過程と、その取材を通じて浮かび上がる「人を一面で語ることの暴力性」、そして此城自身の母として・女性としての葛藤が重ね描きされる。

オンライン取材の場で、此城は編集者や作家に対して無意識に抱いていた先入観を自覚する。望月は世界的評価を受ける若手作家でありながら、異様なほど腰が低く、「すみません」を繰り返す人物だった。その態度に戸惑いつつも、此城は彼女の語りの誠実さ、過剰な自己演出や断定を避ける姿勢に次第に惹かれていく。望月は自分や世界を「日本」「アメリカ」「女性作家」といった大きな単位で語ることを拒み、人間は複数の経験や属性を縫い合わせた「パッチワーク」のような存在だと語る。一度に全体を見ることはできず、特定の布だけを切り取って判断することは無理があり、ときに暴力になるという考えだった。

此城は、望月が過去に外見や性をめぐる激しい中傷を受けてきたこと、海外メディアでも彼女が「移行した人」という一面だけで消費されがちな現実に気づき、自分自身もまた彼女を「傷つけられた人」という枠で理解しようとしていたと反省する。

一方で物語は此城の私生活にも焦点を当てる。娘・琴子の発熱対応や育児を担う日常の中で、「母親だから迎えに行くのが当然」という社会の空気、女の子がこの国で生きることへの不安が募る。文芸業界ですら残るジェンダーバイアスを前に、此城は娘を将来海外に出したいという夢を抱き、望月の言葉にその根拠を求める。しかし望月は、どの国が生きやすいかという問いにも答えを与えず、世界は単純な比較では語れないと静かにかわす。

終盤、此城は過去に関係を持った権威ある男性作家との不均衡な関係を思い返し、自分が置かれていた弱さと、その中で受けた扱いの理不尽さを直視する。望月の「つぎはぎ」という言葉は、他者理解だけでなく、此城自身が自分の人生と痛みを捉え直す視座ともなっていく。


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挿絵日記 朝刊小説 きずもの 233〜240

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233話から240話までは、前半が木下遙と財前万千花の小学校時代の支配的な関係性の完成、後半が舞台を一転させ、現代の文壇で成功を極める作家・望月まもると、その取材に向かうライター此城サリーの日常へと移っていく。

南部第二小学校の名物行事・けんけん相撲大会で、絶対王者だった木下遙の前に、転校生・財前万千花が現れる。荒んだ外見と鋭い目つきで孤立していた万千花は、独特の戦法と異様な根性で強豪たちを次々と倒し、遙の最大のライバルとなる。流血しながらも決勝に進んだ姿は、優勝者以上に人々の記憶に刻まれた。二人はやがて頻繁に言葉を交わすようになり、勝敗を競える存在から、互いを理解する特別な関係へと変わっていく。

5年生で同じクラスになったことをきっかけに、遙と万千花の結束はさらに強まる。体の成長とともに闘志も衰えず、二人は大会の仕組みそのものを変えるため、女子対男子の勝ち抜き戦を提案し、署名と根回しによって全校投票まで持ち込む。結果は圧勝で、万千花は実力だけでなく策略でも学校を掌握する存在となる。6年生になると、万千花は「悪い警官」として恐れられ、遙は「良い警官」として調停役を担い、教師も手出しできない支配体制を築き上げた。学校は事実上、二人のものとなる。

物語はここから大きく転じ、現代。作家・望月まもるは世界的成功を収め、文学界の寵児となっている。彼女を取材するのは、ベテランライターの此城サリー。ボストン在住の望月へのZoom取材を前に、此城は自身のキャリアや、保育園に預けて働く母としての日常を静かに振り返る。編集者や編集長との何気ない会話から、価値観のずれや意外な共感がにじみ出る中、インタビュー開始を目前に控えた緊張と平常心が描かれ、物語は新たな局面への予感を残して幕を下ろす。


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挿絵日記 朝刊小説 きずもの 225〜232

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善恵と頼子の久しぶりの通話が描かれる。頼子が家の近くで働いている理由は、電車に乗りたくないという無自覚な本音にあり、善恵に指摘されて初めてそれに気づく。頼子は車への憧れを語り、後に中古のパジェロミニを購入し、結婚後も同じ車種に乗り続けているという。学生時代と変わらぬ実用的で質の良い装いの頼子を思い浮かべながら、善恵は再会を約束する。しかし頼子は、夫の松川貢ががんであることを突然告げ、善恵は強い衝撃を受ける。

舞台がバンクーバーに移り、遙の視点で万千花、キキ、ゾーイの関係が描かれる。ゾーイがキキにだけ見せる苛立ちや強い物言いから、二人が過去に恋人関係だったことが明かされる。ノンバイナリーやレズビアンといった属性を「普通」と言い切る万千花の態度に、遙は違和感を覚える。

英語力が上達するにつれ、遙は万千花の姿を冷静に見つめるようになる。かつてはバンクーバーに完全に溶け込む万千花を眩しく感じていたが、今は彼女が街の価値観に必死で合わせ、「リベラルである自分」を演じているように見えてしまう。多様性やフェミニズムを学び、街にふさわしい存在になろうとする万千花は、遙には「擬態」しているように映る。

遙自身の過去の留学体験と差別の記憶、そしてバンクーバーという街が持つ「差別を許さない姿勢」が語られる。先住民族への配慮や記念日、土地宣言など、街全体が歴史と向き合おうとする姿に、遙は深い感銘を受ける。

資本主義とプライドパレードを批判するキキとゾーイの会話が描かれ、万千花が理解しきれないまま必死に同調しようとする姿が浮き彫りになる。遙は、誰かに「認められよう」とする万千花が、かつて周囲を支配し、評価する側だった彼女らしくないと痛感する。

遙の小学生時代の回想が語られる。体格に恵まれ、けんけん相撲で無敗を誇った遙は、売られた喧嘩を必ず買う強さを持っていた。その原風景が、現在の遙の自己認識と万千花への複雑な感情の背景として静かに重なっていく。


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挿絵日記 朝刊小説 きずもの 217〜224

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善恵は、自分と元恋人・貢が共有していた過酷な青春時代を思い返していた。80〜90年代の閉塞した空気の中で、二人は互いを慰め合い、深い関係になる。貢は見た目こそ冴えなかったが、知性と繊細さを持つ青年で、善恵に対しては驚くほど誠実だった。ただし彼はあまりに正直で、自分の欲求に悩む姿を見せることもあり、その繊細さこそが善恵には気がかりでもあった。

やがて貢に手酷く裏切られたが、善恵は彼を憎めず、むしろ彼が頼子という優れた女性を射止めたことに感心すらした。善恵自身も別の男性と付き合ったが、結局は自分と似た「地味で努力型」の男性ばかりを選んでいた。だが年齢を重ねるにつれ、青春時代には冴えなかった「ガリ勉」たちが社会で評価される一方、かつて輝いていた運動部やヤンキーの男子たちは輝きを失っていくという“逆転現象”を目の当たりにし、世界の不公平さを感じ始める。

善恵は成功した起業家となり、経済的には余裕がある。しかし女性の場合、年齢や外見に偏った価値観は依然強く、男性のように「成功=モテ」に結びつかない現実に虚しさを覚える。ホストや若いセラピストから寄せられる好意は、あくまで金を見てのものだと分かっており、自尊心の置き場を失っていた。

そんな中、元恋人の貢は小説家として成功していたが、のちに事件を起こして社会的に失墜し、それが頼子に迷惑をかけている。善恵は親友として頼子を気遣うが、頼子本人は驚くほど平静で、むしろ以前と変わらない調子で善恵に連絡をくれる。

ある朝、頼子からのLINEのやりとりの直後に電話がかかってきて、善恵は久々に声を聞き、嬉しさと戸惑いを感じる。頼子は善恵を自宅へ誘い、善恵は貢の状態を気にしつつも、頼子の「大丈夫」という言葉に従い、訪問を決める。自分は何も悪いことはしていないはずだ——そう思いながらも、心には複雑な感情が渦巻いていた。


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