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TN挿絵日記ライターJin Tonicの備忘録です。

新聞小説挿絵模写日記

挿絵日記 朝刊小説 きずもの 329〜336

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329〜336では、物語の中心が「許し」と「回復」、そして「生き方の衝突」へと大きく展開していく。

まず、美咲と頼子の対話では、夫・貢の不貞に対する価値観の違いが浮き彫りになる。頼子は、夫の裏切りを“女性として許すべきでない問題”と捉えるのではなく、あくまで「自分個人の問題」として受け止めている。親友・善恵のように倫理や社会的正しさで裁くのではなく、自分が怒れない以上、離婚もしないという姿勢を自然体で貫く。その「これでいい」という言葉は、諦めでも強がりでもなく、彼女自身の選択としての静かな強さを示していた。一方の美咲は、その在り方に戸惑いながらも、自分との違いを強く意識する。

並行して、遙と万千花の物語は、より切迫した局面に入る。体調を崩した万千花は回復後も衰弱し、無理に仕事へ戻ろうとするが、遙はそれを強く止める。かつて涙を見せなかった万千花が、些細なことで泣くようになり、眠れないなど精神的な不調を抱えていることが明らかになる。遙は自身の引きこもり経験を重ね合わせ、これは専門的な治療が必要だと判断するが、医療へのアクセスの困難さや本人の気力の低下が障壁となる。

異国の地で孤立しながらも、遙はキキやゾーイの助けを借りて奔走する。早朝からクリニックに並び、ようやく精神科医の診察へとつなげることに成功する。治療によって万千花は徐々に回復し、眠れるようになり、食欲も戻っていく。回復の兆しは確かだったが、同時に彼女は再び働こうとし始める。

ここで二人の価値観は激しく衝突する。遙は「命を削るような働き方」をやめるよう迫るが、万千花は将来への不安や金銭的理由から働く必要性を訴える。そのやり取りの中で、万千花の話し方や思考が、キキやゾーイの影響を受けて変化していることに遙は気づき、強い違和感と怒りを抱く。かつての“自分たちのやり方”を失い、他者に同化しようとする万千花に対し、遙は「本来の彼女」を取り戻させようと、あえて挑発的にぶつかっていく。

万千花もまた内心では揺れており、遙の指摘に反発しながらも、自分が変わってしまったことを自覚している様子がうかがえる。二人の衝突は、単なる口論ではなく、「どう生きるか」「何を守るか」という根本的な問いをぶつけ合うものとなっていく。

この一連の流れは、他者を理解しようとする優しさと、自分を守るための変化、そしてそれを拒もうとする絆の葛藤を描き出している。頼子の静かな受容と、遙の激しい抵抗という対照的な姿を通じて、「人はどこまで他者を許し、どこまで自分を変えるべきか」というテーマが深く掘り下げられている。


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挿絵日記 朝刊小説 きずもの 321〜328

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今回の321〜328は、山登りというささやかな非日常の中で、二人の女性の内面が静かに交差していく章だ。物語の中心にあるのは、美咲の揺らぎと、頼子という異質な存在がもたらす“視点の転換”である。

物語は、美咲が夫・猛の昔話をきっかけに、頼子と二人で「希望の丘」へ登るところから始まる。本来なら懐かしさに満ちるはずの場所だが、美咲にとっては、頼子と二人きりという状況がどこか不気味で居心地が悪い。頼子は感情の起伏が読めず、ただ人をじっと見つめる独特の存在で、美咲の想像していた「作家の妻」とはまるで違っていた。

頂上に着き、かつて恋人だった猛と交わした愛の記憶――錠前や景色――に触れることで、美咲の中に過去と現在の対比が浮かび上がる。かつて輝いていた猛は変わり、そして自分もまた変わってしまったのではないかという疑念。外見の若さを保つ努力を重ねてきた美咲だが、心の奥では、夫へのときめきや誇りが失われている現実に気づき始める。

やがて美咲は、自らの内面を吐露する。若い外国人男性との“未遂の浮気”。それは肉体的な欲望というより、「まだ女として求められる存在でありたい」という切実な自信の問題だった。かつて“町田美咲”として輝いていた自分が、いつしか「四人の子の母」という役割に埋もれていったことへの抵抗でもある。

一方で頼子は、その告白を否定も肯定もせず、ただ受け止める。そして自身もまた、若い男性を呼ぶ風俗を体験した過去を淡々と語るが、そこにあったのは性的な興奮ではなく、人との距離や感情を確かめるような静かな時間だった。頼子の語りは一見突飛だが、どこか本質を突いており、美咲の価値観を揺さぶっていく。

終盤、話題は「離婚」に及ぶ。美咲は離婚するつもりはないが、その理由を明確に言葉にできない。頼子は「一緒にいることに理由なんてない」と言い切る。その言葉は冷たくも聞こえるが、不思議と肯定的な響きを持つ。長い時間を共にした関係には、理由を超えた“在り方”があるのだと示している。

そして美咲は、自分の行動の本質に気づく。それは若さへの執着でも、不倫願望でもなく、「自分の価値を確かめたい」という切実な欲求だった。頼子という鏡のような存在を通して、美咲は自分の弱さと向き合いながらも、それを否定せず受け入れていく。

山頂での短い時間は、過去の恋、現在の夫婦関係、そして自己認識を見つめ直す濃密な対話の場となった。静かな風景の中で交わされた言葉の数々が、人生の後半に差しかかった二人の女性に、新たな視点とわずかな救いをもたらしている。


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挿絵日記 朝刊小説 きずもの 313〜320

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幼なじみの猛と貢は、ようやく互いへの率直な思いを言葉にする。猛は自分を「ヒーロー」と呼ぶ貢に照れながらも、その関係の温かさを受け入れ、貢もまた猛の存在に深い安堵を覚えていた。しかし貢の内面には、まだ伝えていない決意があった。二人の関係や自身の過去を小説として書き始めているという事実である。

貢は猛の自分への憧れにどこか懐疑的でありながらも、その単純さや移ろいやすさを愛していた。一方で猛は、過去や加害性に悩むことなく、その時々の感情に忠実に生きる人物として描かれる。かつて家に火をつけた行為も、何かを壊したい衝動というより、言いようのない寂しさや恐れを燃やしたい衝動の表れだった。貢自身もかつて同じような感覚を抱いており、人が変わっていくことの切なさを強く意識する。

やがて貢は、自らの人生や醜さ、欲望を徹底的に見つめる小説を書き始める。それは事実ではなくとも「事実以上に本当のこと」を描く試みだった。がんの告知を受けたことで、彼は死を意識し、自分の人生を記録することに強い意味を見出す。言葉に傷つき、言葉から逃げていた過去を経て、再び言葉に向き合う中で、「モテたかった」というあまりに単純で切実な欲望にたどり着く。それは自分の凡庸さ、人間の普遍的な弱さを突きつけるものだった。

さらに貢は、成功後に力の使い方を誤り、女性を求め続けた過去や、その結果として関わった女性を傷つけた出来事にも向き合う。彼女は世間から激しい非難にさらされ、貢はその状況から逃げた自分を強く恥じる。それでも彼は、せめて自分だけは自分を理解し、許したいと願うようになる。

そんな貢を支え続けたのが妻・頼子だった。事件後も一切態度を変えず、淡々と寄り添い続ける彼女の存在は、貢にとって圧倒的であり、同時に直視できないほどの重みを持っていた。その無条件のような在り方は、救いであると同時に不気味さすら感じさせる。

一方で第三者の視点から見た頼子は、いわゆる「ナチュラル志向」の女性として映る。外見や装いに無頓着で、社会的な「どう見られるか」という価値観から距離を置いているように見える彼女は、美咲にとって理解しがたい存在だった。自らを努力で保っている美咲にとって、頼子の自然体はむしろ異質であり、不気味でさえあった。

こうして物語は、変化と不変、凡庸さと欲望、そして他者との関係の中で揺れる人間の姿を、多層的に描き出していく。


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挿絵日記 朝刊小説 きずもの 305〜312

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万千花は高熱で倒れ、遙にタクシーで救急外来へ連れて行かれる。だがバンクーバーの医療体制は深刻な医師不足により機能不全気味で、救急外来には多くの患者があふれていた。万千花は40度の熱を出しながらもベンチでうずくまり、結局医師に診てもらえるまで8時間も待たされる。診断は異常なしで、鎮痛剤のアドビルを飲めと言われただけだった。帰りの車中、遙は空腹と疲労で限界だったが、万千花を放って帰ることはなかった。

遙は万千花に腹を立てながらも、全力で看病する。その背景には二人の長い友情がある。子どもの頃、遙がいじめられた時には万千花が相手に仕返しをし、思春期にはタンポンを怖がる遙を無理やり克服させた。さらに遙が薬物の影響で乱暴され傷ついた際には、加害者たちを探し出して報復させるほどだった。東京で同居していた頃、遙が胃腸炎で弱った時にも、万千花は乱暴な言葉を吐きながらも世話をしていた。そんな強い万千花が今、遙の膝の上で弱々しく謝る姿に、遙は怒りと恐れを覚える。親しい友人が弱る姿を見ることは、耐えがたいほど怖いものだと気づくのだった。

一方で物語は、幼なじみの猛と貢の再会へと移る。猛は肥満や体調不良に悩みながらも、久しぶりに再会した貢から「がん」を告げられ、衝撃で号泣してしまう。二人は思い出の瀬名浜を訪れ、誰もいない海辺で語り合う。猛は子どものように「死なないよな」と泣きすがり、貢は静かにそれを受け止める。東京に戻れば抗がん剤治療が始まるが、どれほど効果があるかは分からないという。

夕方まで浜辺で過ごすうち、二人は子どもの頃の思い出を語る。猛は運動万能で人気者だったが勉強は苦手で、貢はその猛をずっと羨ましく思っていたと打ち明ける。対して猛は、自分には誰にも言えない秘密があると告白する。ある夜、理由も分からないまま自宅に火をつけようとしたのだ。すぐ消したため大事には至らなかったが、その焦げ跡を見るたび罪悪感に苛まれてきた。

貢はそれを責めず、「家族を殺したかったのではなく、燃やしたかったんだね」と静かに受け止める。猛は、自分は幸せで恵まれているはずなのに、時折どうしようもない孤独に襲われると打ち明ける。貢は「人生は寂しいものだ」と穏やかに言う。

さらに話は貢自身の過去にも及ぶ。彼は文学賞を受賞するほどの作家だったが、逮捕事件によって名声を失った人物でもあった。しかし故郷の人々は彼を責めるどころか温かく迎えてくれたという。猛は彼を村の誇りであり英雄だと励ますが、自分の人生はうまくいかなかったと自嘲し、家庭の問題や自分の弱さを吐露する。


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挿絵日記 朝刊小説 きずもの 297〜304

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万千花は体調不良のまま飲食店での仕事を続け、若い同僚ミツキの「優しさ」と、店長や周囲の無理解の狭間で耐え抜こうとする。永住権取得のため「責任感ある人間」と評価されたい思いから無理を重ね、嘔吐を繰り返しながら終業まで働き切るが、帰宅途中で倒れてしまう。夜道で目覚めた万千花は頭を強く打ったことに気づきつつも、「大丈夫」と自分に言い聞かせ帰宅を試みる。道中で飼い猫ミッテに出会い、かつての仲間や人生観に思いを巡らせるが、家に着いても力尽き玄関で気絶する。遙を呼ぶ声は届かず、弱った姿を見せたくない思いと孤独が重なる。

一方の遙は、バンクーバーでの生活を「人生の休暇」と位置づけ、日本へ帰る意志を保っている。街の明るさや健康的な暮らしに救われつつも、かつて鬱に苦しんだ記憶を忘れていない。そんな中、万千花が自分の過去や失敗をキキやゾーイに語り、「日本は遅れている」「日本社会の被害者だ」と誇張して見せたことに強い怒りを覚える。自分の物語を他人に売り、在留理由の正当化に使った万千花を「ルール違反」と感じ、制裁を加える決意で部屋を飛び出す。

しかし廊下で遙が目にしたのは、すでに衰弱しきった万千花の姿だった。万千花は高熱と嘔吐で意識がもうろうとしながらも、仕事に行こうとする。救急車を拒み、医療費を気にする姿に遙は戸惑いと怒りを覚えつつ、ベッドへ運び、氷で冷やし、体温を測ると39度を超えていた。夜には40度近くまで上がり、遙は911に電話するがつながらず、結局Uberで救急外来へ向かうことになる。陽気に話しかけてくる運転手の無神経さに、遙は現実の過酷さを痛感する。二人の間にある怒りと依存、友情と歪みは、万千花の重い病状によって一時的に押し流され、遙は命の危機に直面した友を前に、感情よりも行動を選ばざるを得なくなる。


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