
万千花は高熱で倒れ、遙にタクシーで救急外来へ連れて行かれる。だがバンクーバーの医療体制は深刻な医師不足により機能不全気味で、救急外来には多くの患者があふれていた。万千花は40度の熱を出しながらもベンチでうずくまり、結局医師に診てもらえるまで8時間も待たされる。診断は異常なしで、鎮痛剤のアドビルを飲めと言われただけだった。帰りの車中、遙は空腹と疲労で限界だったが、万千花を放って帰ることはなかった。
遙は万千花に腹を立てながらも、全力で看病する。その背景には二人の長い友情がある。子どもの頃、遙がいじめられた時には万千花が相手に仕返しをし、思春期にはタンポンを怖がる遙を無理やり克服させた。さらに遙が薬物の影響で乱暴され傷ついた際には、加害者たちを探し出して報復させるほどだった。東京で同居していた頃、遙が胃腸炎で弱った時にも、万千花は乱暴な言葉を吐きながらも世話をしていた。そんな強い万千花が今、遙の膝の上で弱々しく謝る姿に、遙は怒りと恐れを覚える。親しい友人が弱る姿を見ることは、耐えがたいほど怖いものだと気づくのだった。
一方で物語は、幼なじみの猛と貢の再会へと移る。猛は肥満や体調不良に悩みながらも、久しぶりに再会した貢から「がん」を告げられ、衝撃で号泣してしまう。二人は思い出の瀬名浜を訪れ、誰もいない海辺で語り合う。猛は子どものように「死なないよな」と泣きすがり、貢は静かにそれを受け止める。東京に戻れば抗がん剤治療が始まるが、どれほど効果があるかは分からないという。
夕方まで浜辺で過ごすうち、二人は子どもの頃の思い出を語る。猛は運動万能で人気者だったが勉強は苦手で、貢はその猛をずっと羨ましく思っていたと打ち明ける。対して猛は、自分には誰にも言えない秘密があると告白する。ある夜、理由も分からないまま自宅に火をつけようとしたのだ。すぐ消したため大事には至らなかったが、その焦げ跡を見るたび罪悪感に苛まれてきた。
貢はそれを責めず、「家族を殺したかったのではなく、燃やしたかったんだね」と静かに受け止める。猛は、自分は幸せで恵まれているはずなのに、時折どうしようもない孤独に襲われると打ち明ける。貢は「人生は寂しいものだ」と穏やかに言う。
さらに話は貢自身の過去にも及ぶ。彼は文学賞を受賞するほどの作家だったが、逮捕事件によって名声を失った人物でもあった。しかし故郷の人々は彼を責めるどころか温かく迎えてくれたという。猛は彼を村の誇りであり英雄だと励ますが、自分の人生はうまくいかなかったと自嘲し、家庭の問題や自分の弱さを吐露する。
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