
小説家の彼は、現実の穏やかさとは裏腹に、SNS上では攻撃的で極端な意見を発信する人物だった。政治への怒りや社会問題への強い自己批判、そして「特権」「搾取」といった言葉で自らを責め立て続ける姿に、木下遙は常に違和感と疲労を覚えていた。遙にとってSNSは軽い娯楽の場だが、彼にとっては自己嫌悪と告白の舞台であり、遙への接し方にもその陰鬱さが影を落とした。
遙を誘ったのは遙自身であり、関係を続けるのも彼女の意思だった。それでも彼は「利用」「不均衡」などの言葉を繰り返し、遙を弱い存在として扱おうとする。遙はそれに戸惑いを覚えつつ、彼の過剰な自己否定は本気なのだと次第に理解していく。遙は自分の意思や生き方に自信があったが、彼は罪悪感に押し潰されていった。
やがて彼は深刻な状態となり、自分が「罰されるべき存在だ」とまで言い出した。遙は彼の不安を和らげようとするが、ある助言がきっかけで彼の失墜につながってしまう。世間からは遙が「作家の将来を壊した」と責められ、彼女は誹謗中傷や身元特定など極端な攻撃を受け、一時は命の危険を感じるほど追い詰められた。
ただその中にも、彼女を擁護する声があった。だがその多くは遙を「弱い少女」として想定したもので、遙自身の実像──自立した29歳の女性であること──とはかけ離れていた。擁護されながらも、遙はどこか「不当な救済」を受けているような気持ちを拭えなかった。
そんな遙を救ったのは、カナダ・バンクーバーで暮らす親友・財前万千花だった。彼女は昔のように茶化すでもなく、ただ「大変やったな」とだけ言って寄り添う。その静かな態度は遙を安心させる一方で、どこか物足りなさも残した。遙は、過去のように無責任に笑い飛ばし、すべてを冗談に変えてくれる万千花を求めていたのだ。
一方、日本では善恵が登場する。親友・頼子とは長年の関係があり、コロナ禍で会えない期間も毎日のように連絡を取り合っていた。パンデミックによって社会が変わる中で、善恵のビジネスはむしろ成長した。人と距離を取らざるを得ない状況が、人恋しさと需要を増幅させたためだ。
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