
遙(はるか)の記憶にあるカヨさんは、家族の誰とも血縁のない、不思議な存在だった。祖母のような年上の女性で、家事を甲斐甲斐しくこなしていたが、いつの間にか姿を消した。バンクーバーへ旅立つ前、父・映心(えいしん)と食事をしていた遙は、久しぶりにその名を耳にする。カヨは実は「カ・ヨウ」という名の不法移民で、困っていた彼女を映心がかくまっていたのだという。遙は驚きつつも、父が彼女をタブー視していないことに安堵する。
その後、映心と紹興酒を飲みながら過ごす時間に、遙は父への複雑な愛情を再確認する。放任されながらも、どこか深く愛されてきた――。やがて遙はカナダでの暮らしに慣れ、「Le Coq」というレストランに通うようになる。語学学校でも上達を実感し、マリア(ブラジル出身)とエレナ(スイス出身)の友人ができた。3人は文化や社会保障、コロナ禍の経験を語り合う。スイスの孤独、ブラジルの助け合い、日本の曖昧さ。遙は自国を説明する言葉を持たず、英語の語彙の乏しさを痛感する。
日本では「自粛警察」などの異常な同調圧力が横行したが、それを英語で説明できない自分に歯がゆさを覚えた。外国人が抱く「真面目で安全な日本」というイメージと現実の乖離にも戸惑う。
ある日、「Le Coq」で出会った白人女性ケイティーと気さくに会話できたことが、遙に大きな自信を与える。語学学校以外で初めてできた友人だった。英語で冗談を言い、映画を字幕なしで理解できるようになった遙は、成長を実感しながら語学学校を卒業する。
一方、日本では新たな物語が動き出していた。町田猛(たけし)の次女・聖愛(セア)は、母・頼子(よりこ)の浮気を疑いながら、恋人・紡(つむぐ)と純粋な恋を育む。二人は「希望の丘」で永遠の愛を誓い、南京錠をかけて将来を夢見る。紡は「SEA(セア)」と自らの腕に刻み、最初の子どもには「海」と名付けようと約束する。
聖愛にとってそれは幼い誓いでありながらも、両親の世代へとつながる「愛の循環」の始まりでもあった。
バンクーバーで自立の力をつける遙、東京で再会し絆を取り戻す頼子と善恵(よしえ)、そして地方の町で愛の芽生えに戸惑う聖愛。――三世代の女性たちの物語は、時と場所を越えて静かに交わり始めていく。
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