
万千花は、曽祖母タツの「理不尽なルールへの静かな反抗」を受け継いでいた。子どもの頃から給食を残し、教師の命令にも従わず、「特別でありたい」と願いながらも、父の借金や家族の貧しさがつくる“望まぬ特別”に傷ついていた。だが「マチカは私たちの特別な人だから」とキキに言われた瞬間、彼女は初めて望んでいた「特別」に触れた気がした。文化住宅で女4人が寄り添って生きた記憶と同じ温もりを感じながら。
やがて万千花は、遙をキキとゾーイに紹介する。黒猫ジジの逃走騒ぎをきっかけに、猫を外に出すかどうかという話題になる。遙は「外に出すと虐待だと言われる」と語り、キキとゾーイは「それでは猫はどうやって人生を楽しむの?」と真顔で問う。万千花は、外を知らぬ猫を「外の存在を知らない日本人や、家から出ない曽祖母」に重ね、胸の奥に沈黙を抱えた。だがゾーイの焼いたクッキーと遙の屈託のない笑いが、場の緊張をやわらげる。遙は相変わらず奇抜な化粧をしているが、その中に子どもの頃の純粋さを残していた。
やがて話題は言葉と発音へ。二人は英語教育を笑い飛ばし、「ジスイズアペン」しか覚えさせなかった教師“ジス”の記憶で盛り上がる。万千花は努力で発音を矯正したが、遙はまだ「呪い」の中にいる。だが彼女はそれを恥じず、スタバやスーパーでの失敗談を明るく語る。その自然さに、他人の目や規範を恐れてきた万千花は、胸を突かれる。遙には、恥じることのない強さがあった。
場面は変わり、善恵の視点へ。彼女は、事件の後にようやく旧友・頼子と連絡を取る。「元気にしてる?」の一文だけのメッセージに、頼子は一ヶ月後「元気にしてるよ」と返した。久々に再会した頼子は、白髪まじりでも化粧気がなく、しかし気高い美しさを保っていた。フリースにジーンズ、コンバースという飾らない姿で、高級レストランでも自然に人目を引く。
頼子は昔と変わらず、迷わず天丼を頼み、豪快に平らげる。善恵はそんな彼女を眩しく見つめながら、若い頃、同じ学食で毎日麻婆豆腐を選んでいた姿を思い出す。頼子の瞳は蜂蜜色に光り、静かな強さを湛えていた。山登りをやめ、年齢や体力の衰えを淡々と語る頼子に、善恵は言葉を探す。夫の話題を避けて空気は一瞬重くなるが、食事を終えた頼子の笑顔と無邪気な食欲が、かつての時間を取り戻していく。
こうして、過去と現在、異国と日本、反抗と受容が交錯する中で——
誰もが「外を知らぬ猫」のように、それぞれの檻を破ろうとしていた。
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