
松川貢は、母親の過保護な愛情によって「男らしさ」や「迫力」を持てず、周囲から雑魚扱いされていると感じている。母を恨んではいけないと理解しつつも、彼女の無償の愛がかえって自分の価値を傷つけているように思え、夕食を少し残すなど消極的に反抗する。父親は家庭に無関心で、貢の現状に無自覚だ。友人の猛と話すことで一時は救われるが、猛の無邪気な強さに対し自分の弱さが際立ち、さらに落ち込む。
中学2年で猛と別クラスになり、貢は盾を失い孤立する。「害のない雑魚」として扱われ、直接的ないじめは受けないが、侮蔑と無関心の中で生きるしかない。ある日、『沈黙』を読んでいた際、抱き茗荷の家紋入りの栞を水口あきらにからかわれ、それがきっかけで「しおり」というあだ名がついた。家紋や歴史を愛する貢の繊細な感性は理解されず、母の贈り物まで否定されたように感じ、傷つく。
水口はかつて貢に近かったが、思春期の男性性を誇示し、力のあるグループに認められることを求めて雑魚を嘲笑するようになった。その構図は他のクラスメートにも共通しており、「ダサい」という曖昧な基準で誰もが標的にされうる恐怖が教室を支配する。栞の件もそうした力の論理の中で嘲笑され、貢は「二度と人前で本を読まない」と誓う。
その後の席替えで、町田美咲という「力のあるグループ」の女子の隣になるが、彼女から発せられた小さな「なんじゃ、しおりかよ」という一言は、誰に見せるでもない真の失望だった。貢は聞こえないふりをするしかなく、自分が「誰かの隣になることを嫌がられる存在」である現実に直面する。彼女はその後、貢を気にせず眠り、貢だけが苦しみ続ける。
深夜、自室で眠れず、「死にたい」「消えたい」と願いながらも、死ぬ勇気もなく、生への執着と矛盾した絶望の中で、自慰に逃れることでしか慰めを得られない。インターネットのない時代、曖昧な想像の中で性に触れながら、貢は自分の存在を必死に肯定しようともがいている。だが、母からの愛、本や家紋、栞という自分の大切なものを愛し続ける限り、貢は社会から排除され続ける存在であり、この苦しみは永遠に続くのだと信じていた。
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