
貢は望月の体調を気遣い、頼まれてもいない薬や栄養食品を買ってしまう。彼女への過剰な気遣いの裏には、自身の性欲への強い罪悪感と恐怖があった。20歳の頃から抱えてきたその感情が、45歳となった今、再び押し寄せる。彼は望月に対する欲望を魚住に見抜かれているのではないかと不安を抱きつつも、気まずさを紛らわせるように饒舌になる。魚住との会話の中で、貢は彼が中学から大学までバスケに打ち込みながらも、文芸の世界に入った理由に興味を抱く。魚住は「通学電車で本を読む習慣から文芸に興味を持った」と語るが、その動機の軽さに貢は内心冷めた感情を抱く。
魚住は思春期に太宰治を読んだ衝撃から読書に目覚めたと語るが、そこには「作者の意図を理解したい」という征服的な欲求があった。貢は、彼の文学へのアプローチが体育会系的であることに違和感を覚え、自身の読み方との距離を痛感する。貢にとって読書は「理解する」よりも「触れる」ものであり、魚住のような「征服欲」とは対極にあった。
その後も魚住との会話は続き、彼は「今では分からない作品に出会うと、自分が良い読者でなかったと思う」と語るが、それもまた貢には“配慮の行き届いた発言”に思える。自作の批判にも懐の深さを見せる貢だったが、魚住の低姿勢や過剰な持ち上げぶりには、体育会系的な「媚び」の性質を見て取る。
望月への魚住の感情に嫉妬まじりの疑念を持った貢は、「彼女にどんな作家になってほしいか」と探りを入れるが、魚住は「自分は並走するだけ」と無難に答える。貢は、彼が彼女に欲望や支配の気持ちを抱いている証を求めていた。望月の容姿によって、今後作家として本質ではない評価を受ける可能性を懸念しつつ、実は自分もまた彼女を外見で見てしまっているという矛盾に無自覚なままでいた。

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