
作家・松川貢は、文芸誌『ほむら』の新人賞を受賞した望月まもるとの対談のため、出版社に赴いていた。だが、対談開始時刻を過ぎても望月は現れず、担当編集者の魚住は焦り、連絡を試み続ける。望月はようやく45分遅れで姿を現すが、その人物は貢の予想を裏切る、美しく繊細な若い女性だった。寮を舞台にしたデビュー作『木星のくず』の生々しい筆致から、貢は望月を男性だと思い込んでいたのだ。
望月は反対方向の電車に乗ったという理由で遅れ、何度も「すみません」と頭を下げる。貢は彼女の謙虚さと不器用さに魅了され、見つめることすら平気になっている自分に驚く。対談は穏やかに進み、互いの作品への敬意を交わすうちに、望月は貢に強い関心を寄せていることが伺えた。貢もまた、彼女の反応に舞い上がりながらも、自制を保とうとしていた。
対談後、予定外の打ち上げが開かれ、ビストロで乾杯する一同。貢は望月の隣に座り、内心では彼女との距離を測りかねていたが、手の甲が触れても彼女は身を引かなかった。望月は酒に弱く、赤くなった首にはアトピーの跡も見えたが、それすら貢には愛おしく思えた。彼女は「すみません」と何度も繰り返し、まるで謝罪することが習慣のようだった。
彼女の異様な謙虚さと怯えの由来を、貢は作中の登場人物と重ねて推測する。だが、彼にとって何より強烈だったのは、望月という存在が、自身がかつて味わった文学的栄光や寮生活の記憶、そして自身の「選ばれる喜び」と共鳴していたことだった。
33ー40のこの1週間では、「書く者」としての特異性や、世代・性差・立場を越えた作家同士の出会いが濃密に描かれ、貢の視点を通して、若き才能に対する尊敬と微妙な恋情の芽生えが繊細に浮かび上がっています。
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