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文学サークル「轍」に所属する大学生・貢(みつぐ)の内面と、彼が出会った女性・頼子(よりこ)との関係の始まりと深化が描かれます。

サークルの部室で寝転がって本を読む頼子に出会った貢は、彼女の大胆さと美しさに心を奪われる。だが彼女が親友・善恵の友人であることがわかり、混乱しながらも惹かれていく。サークルの学生たちは、幼少期に「本の虫」や「ガリ勉」とからかわれた経験から、文学への愛を堂々と語ることにためらいを持ち、斜に構える態度が常だった。その空気の中で、頼子は正反対の存在だった。思ったことをまっすぐに言い、本を心から愛していた。

やがて貢と頼子は恋人になり、肉体関係を持つ。貢は善恵への罪悪感を抱きながらも、「頼子のような人に選ばれた」という圧倒的な幸福感を感じる。頼子は飾らず、自然体でありながら知的で、美しく、行動的な女性で、読書と登山を結びつけるような独自の感性を持っていた。頼子は読んだ作品を臆することなく肯定し、その本と登った山の記憶を結びつけて語る。貢は彼女と読書体験を共有しながら、それぞれに異なる読書の声を報告し合い、新たな気づきを得る時間を過ごす。

頼子は善恵との友情が終わることも厭わず、貢との関係に誠実であろうとする。その強さに貢は驚き、同時に魅せられる。善恵との別れは穏やかに進み、貢は「轍」の部室を出入り禁止になるが、それ以上の損失はなかった。貢と頼子は図書館で読書を続け、互いの思考を深め合う日々を送る。

貢は頼子に問われる。「小説、書かないの?」。それは彼のこれからを揺さぶる問いとなる――彼の文学への愛と人生の進路、その核心に触れる予兆として物語は次章へと続く。


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