とくに示唆に富むのが、中国との力関係の変化と、それに対する戦略の変質だ。かつて日本の国益は、過去の贖罪意識も含め、中国を国際社会に包摂することにあった。しかし、2010年の漁船衝突事件や国内総生産(GDP)逆転を経て、その前提は崩れる。田中は、近年の「価値観外交」や防衛費増額の路線に対し、単に仲間を作って敵に備えるだけでは外交とは言えないと説く。「外交の本旨は敵を敵でなくすること」であり、軍事はあくまで備えに過ぎないという指摘は、現在の「安保至上主義」への鋭い警鐘として響く。米国との力関係、中国の台頭、そして北朝鮮問題。これらが複雑に絡み合う中で、日本は今後いかなる座標軸を持つべきか。田中が語り尽くした日本外交の舞台裏には、日本が思考停止の対米追従に陥らず、独自の生存戦略を描くためのヒントが詰まっている。タブーを恐れず、日本の国益のために外交に一生を捧げた男の言葉は、重く、そして今こそ読まれるべき示唆に満ちている。
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